文学

ナンセンス漫画

かつて、ナンセンス漫画というジャンルがあった。まだ大人向けと少年向けのマンガ雑誌が分かれていた頃で、大人向けの「週刊漫画サンデー」などがその主戦場だった。やがて劇画というストーリー性の高いジャンルが登場し、ナンセンス漫画は影が薄くなってい…

【月やあらぬ・・・】

【月やあらぬ・・・】 伊勢物語には、挿入歌として次の歌がある。 「月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身一つはもとの身にして」 これは在原業平に擬せられた主人公が、想い続けた高貴な身分の女性と無理やり引き離されて、居なくなってしまった侘しい心を、月…

自作品/『喫茶店にて』

自作品/『喫茶店にて』 文学にはまっていた学生時代、吉行淳之介や梶井基次郎の、無機質で透明な文体にあこがれて真似した。結局まともなものは書けなかったが、唯一「散文」としてまとまったものと思ったのが、この掌編だった。 ------ 『喫茶店にて』 小さ…

『村上春樹風に「ゲイ」について語る』(おちゃらけ擬文)

『村上春樹風に「ゲイ」について語る』(おちゃらけ擬文) 完璧なゲイなどといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。六月にデートした女の子とはまるで話があわなかった。僕が南極について話している時、彼女はゲイのことを考えていた。ゲ…

【瀬戸内寂聴入寂と墓碑銘もろもろ】

【瀬戸内寂聴さん入寂と墓碑銘もろもろ】 瀬戸内寂聴さんの訃報が報じられた。特に思い入れがある作家ではないが、いろいろその名を耳にすることが多い人だった。合掌。 追悼記事が多くみられるが、さっそく「自身の墓碑に刻む言葉は決めていた」(読売)と…

【太宰治 どうにか、なる】

【太宰治「どうにか、なる。」】 「よい仕事をしたあとで 一杯のお茶をすする お茶のあぶくに きれいな私の顔が いくつもいくつも うつっているのさ」 「どうにか、なる。」 太宰治「葉」より こういう文章を書かせたら、太宰は抜群だな。そういえば、まだ太…

【アンナ・カレーニナ】"Anna Karenina"(レフ・トルストイ)

【アンナ・カレニナ】"Anna Karenina"(1948/英) ジュリアン・デュヴィヴィエ監督/トルストイ原作 「幸福な家庭はどれも似たようなものだが、不幸な家庭はそれぞれに不幸である」 このような意味のフレーズをうろ覚えで記憶していたが、これがトルストイの『…

『ペスト』アルベール・カミュ

『ペスト』アルベール・カミュ(新潮文庫/Kindle版) 初めて電子版で書籍を読んだ。小説も読まなくなって何年にもなるが、さらにモニター画面で読むと、かつての読書という感じとは異なる。とりあえずダウンロードして読み始めたが、どれだけボリュームがあ…

【宮城まり子の訃報と吉行淳之介】

【宮城まり子の訃報と吉行淳之介】 宮城まり子の訃報で、久しぶりに吉行淳之介の名を見ることになった。私が文学にはまり出した20歳前後の時、吉行は40代前半で、作家としてもっとも脂の乗り切った時期で、同年代だが中だるみ気味の三島由紀夫よりも、文学世…

『村上春樹風に「無」について語る』

『村上春樹風に「無」について語る』(また、おちゃらけ擬文を作ってみたくなったw) 完璧な「無」などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。 六月にデートした女の子とはまるで話があわなかった。 僕が南極について話している時、彼…

【戦後ショービジネスと風俗小説 / 肉体の門】

【戦後ショービジネスと風俗小説 / 肉体の門】 1947年8月 新宿・帝都座で初演された空気座による「肉体の門」の大ヒットは、その後の軽演劇に大きな影響を与えた。 戦後のパンパン(米兵などを相手にした娼婦はこう呼ばれた)風俗を描いた田村泰次郎作の小説…

【和田誠氏追悼】

【和田誠氏追悼】 和田誠氏の、しゃれた軽いタッチで人物の内面まで映し出すようなイラストが好きだった。私の好みの本と氏のイラストの相性が良いのか、若い時に購入した本の装丁は和田誠氏のものがたくさんある。 その一冊に「お楽しみはこれからだ」とい…

【写真家・林忠彦と無頼派作家】

【写真家林忠彦と無頼派作家】 https://cardiac.exblog.jp/17894397/ これは「紫煙と文士たち」と題した写真展の 展示作品集である。林忠彦という戦後間もない時期から活躍した写真家で、日本の風俗や文士・風景など多岐にわたる写真を撮影した。 兵隊靴を履…

【書くこと話すこと】

【書くこと話すこと】 ランダムな写真10枚ほどを見せて、「これらから一枚の写真を選び、それについて1000字(2.5枚)程度の文章を書け」とかやったら、ヘタな入社面接より有効だと思う。 さらに詳しくその人物の思考能力を調べるなら、「ネット検索可で3時…

【11th Century Chronicle 1001-20年】

【11th Century Chronicle 1001-20年】 ◎平安朝女流文学 *1001頃/ 清少納言「枕草子」、この頃に成立か。この前年に出仕していた中宮定子が亡くなっている。 *1002頃/ 紫式部「源氏物語」の一部が成る。 *1004頃/ 「和泉式部日記」が完結する。 *1020.9.…

【芥川龍之介の自殺と、その文学】

【芥川龍之介の自殺と、その文学】 ◎1927(s02).7.24 作家 芥川龍之介(36)が自殺する。 文壇の鬼才と呼ばれた芥川龍之介が、この日未明田端の自宅で、歌人で精神科医でもあった斎藤茂吉からもらっていた致死量の睡眠薬を飲んで自殺した。一説では、青酸カリ…

秋刀魚の歌 佐藤春夫

久々に秋刀魚が豊漁だというニュースが入ってきた。そこで思い起こす詩といへば・・・ >>> http://www.mikumano.info/satoharuo/sanmanouta.html 秋刀魚の歌 佐藤春夫 あはれ 秋風よ 情あらば傳へてよ ――男ありて 今日の夕餉に ひとり さんまを食(くら)…

坂口安吾の断章から

坂口安吾の断章から*坂口安吾botより 「老人というものは、口を開けば、昔はよかった、昔の芸人は芸がたしかであった、今の芸人は見られないと言う。何千年前から、老人は常にそう言うキマリのものなのだ。それは彼らが時代というものに取り残されているか…

【昭和文学的自殺三態】

【昭和文学的自殺三態】 ○1927(s2).7.24 [東京] 作家 芥川龍之介(36)が自殺する。 文壇の鬼才と呼ばれた芥川龍之介が、この日未明田端の自宅で、歌人で精神科医でもあった斎藤茂吉からもらっていた致死量の睡眠薬を飲んで自殺した。一説では、青酸カリの服…

【1970年 三島事件の記憶】

【1970年 三島事件の記憶】 ≪爆報!THEフライデー【三島由紀夫の妻…壮絶人生】≫ 2017.11.24 https://kakaku.com/tv/channel=6/programID=29386/episodeID=1116296/?fbclid=IwAR360zPmJABq8tivPBx2cgrJG5rrxyB0C7_Dop1zi7-yS-kFDQdfMh5uIws 三島由紀夫の没後47…

【漱石における”明暗”】

【漱石における"明暗"】 漱石は、本格的に作家としてやっていくために、朝日新聞に籍を置いて「虞美人草」を書いた。恋愛というエゴと、日常の打算というもう一つのエゴのせめぎ合いを、藤尾という女性キャラに照らし合わせて、分光してみせた。 それまでの…

【「悲しみよこんにちは」とよもやま話】

【「悲しみよこんにちは」とよもやま話】 NHK BSプレミアムで「悲しみよこんにちは」をやっているのを観た。フランソワーズ・サガンの原作も昔よんだが(もちろん朝吹登水子訳でw)、映画は1958年英米合作で、セリフは英語。モノクローム・ベースで、回想シ…

【柳原良平追悼】(1915/08/19)

【柳原良平追悼】(1915/08/19) サントリー・トリスのシンボルキャラクター、「アンクル・トリス」をつくり出した柳原良平さんが死去。また懐かしい昭和の星が一つ消えた。 昭和30年代のサントリー(当時は「寿屋」)宣伝部には、後の作家 開高健、山口瞳、…

【『火垂るの墓』 野坂昭如原作小説とジブリ・アニメ版】

【『火垂るの墓』 野坂昭如原作小説とジブリ・アニメ版】 二年前にFacebookに書いたものが、浮き上がって来たので再掲してみる。 >> テレビでジブリ・アニメ『火垂るの墓』やってたので観た。どう見ても、お涙ちょうだい風に見えてしまうね。 実は初版のハ…

【ロートレアモンとシュルレアリスムとの偶然の邂逅】

【ロートレアモンとシュルレアリスムとの偶然の邂逅】 ”Salvador Dalí - Sewing machine with umbrellas” シュルレアリスムを語るときに、必ず引き合いに出されるロートレアモン伯爵の一節「解剖台の上での、ミシンと雨傘との偶発的な出会い(のように美しい…

【江戸川乱歩 没後50年】(2015. 8記)

【江戸川乱歩 没後50年】(2015. 8記) NHK ETV特集「二十の顔を持つ男〜没後50年・知られざる江戸川乱歩〜」を観た。 乱歩に出会ったのは中学生の頃、少年向けポプラ社の「怪人二十面相」シリーズ。その後、家の物置に講談社探偵小説全集が転がっている…

【京都・文学散策4】

【京都・文学散策4】 〇京都・文学散策10.雁の寺・等持院・紫野>水上勉『雁の寺』 岸本南獄が死んだ日の前日、…… 衣笠山麓にある孤峯庵(こほうあん)の住職、北見慈海が訪ねてきた。…… 「どうや、どんなあんばいや」 慈海和尚は、玄関に出た顔見知りの女中…

【京都・文学散策3】

【京都・文学散策3】 〇京都・文学散策7.二条后・芥川>『伊勢物語』六段 昔、男ありけり。女のえ得まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、からうじて盗み出でて、いと暗きに来けり。芥川といふ河を率ていきければ、草の上に置きたりける露を、「かれ…

【京都・文学散策2】

【京都・文学散策2】 〇京都・文学散策4.紫野・賀茂の祭>『今昔物語集』巻二十八第二「頼光の郎等共、紫野に物見たる語」 今は昔、摂津守源頼光朝臣の郎等にて有りける、平貞道・平季武・坂田公時と云ふ三人の兵有りけり。・・・ 然て、紫野樣に遣らせて行…

【京都・文学散策1】

【京都・文学散策1】 〇京都・文学散策1.八百卯・丸善書店>梶井基次郎『檸檬』 どこをどう歩いたのだろう、私が最後に立ったのは丸善の前だった。平常あんなに避けていた丸善がその時の私にはやすやすと入れるように思えた。 「今日は一つ入ってみてやろう…