【食の怪02「人肉食品」】

 

『人肉ソーセージ』
《 ソーセージ工場では、作業員がよく指をハネ落とされるそうです。たかが指の先っちょ一つで何トンもの肉を無駄にする訳にはいきません。もちろん、「人肉入り」てな表示もいたしません(^^;。

 指を落とした作業員には、「ち止め料??」としていくばくかの「手当」が支給されるそうな(^^;。ひょっとしてカマボコ工場の話だったかな。違ってたらごめんなさい、ソーセージ屋さんm(..)m 。》

 

 究極の不気味な食品といえば、やはり人肉のはいった食べ物であろう。さきに紹介した噂のなかにも、「人間ダシラーメン」や「人の熔けたキャラメル」といった人間混入食品の話題があった。この手の人肉食品の不気味さと「ネズミバーガー」のような異常食品との差異はどこにあるのだろうか。
 

『人肉入りヒキ肉』
《 いろいろとお話ありがとうございます。ハンバ−ガ−の肉の内容がネズミならまだしも、人肉だった、という話がたしかドス・パソスの小説にありましたねえ。(ひょっとして間違いだったらアメリカ文学にくわしい方、教えてください)
 さいきんの新聞によりますと、中国でついこのあいだ、人肉を混入したヒキ肉が販売され、犯人が死刑になった?という話を読んだ記憶があります。その死刑になった人の死体はどうなったのか?こうなるとブラック・ユ−モア。》

 

 意識的な人肉食と、しらずに人肉を食べさせられてしまうことの間の開きは大きい。前者はカニバリズムのような異常嗜好であったり飢餓による特殊状況であったりと、常人にはさしあたって縁のとおい話である。そのような話題に好奇心が旺盛であるとしても、直接わが身にてらして考えることは少ないであろう。

 他方後者の場合には、いつのまにか食べさせられているかも知れないという不安がある。「人肉ソーセージ」などは、ひょっとしたらすでに食べてしまっているかも知れないのである。この「ひょっとしたら」という可能性が、この種の噂にあやしげなリアリティをもたせている。とはいえ、同じ「ひょっとしたら」であっても、人肉ソーセージとネズミバーガーとの間にはまだ隔たりがある。
 

『人肉は美味い?』
《 人の肉を食べる話は、いろいろとあるようで、『デリカ・テッセン』では人肉ソーセージの話でした。佐川君事件をはじめ、人肉を食べるというタブーを犯す話は、噂になりやすいようです。そして、人肉は実は美味いという話も、密やかに語られるようです。【タブーを犯す】というのも、噂の素のような気がします。》

 

 結局は、このタブーの問題に収斂していくのであろうか。食習慣についての禁忌はそれぞれの文化風土によりさまざまである。イスラム圏では豚肉がタブーであっても、わが国では豚肉は安価な蛋白源として店頭に氾濫している。そもそも文明開化以前には、わが国でも四つ足の動物は食せられなかったはずである。となれば、牛肉・豚肉とネズミ肉・ミミズ肉とのあいだの境界は紙ひとえであろう。
 

 ここで「人間の精神」という主題をもちこめば、ことは簡単に氷解するようにみえる。精神を持つ人間を食することは、特別なタブーの位置をしめるということになる。しかしダーウィンの進化論の登場以来、人間と他の動物との境界はかぎりなく取り払われつつある。人間が高度な精神活動をするとはいえ、牛や豚に心理過程がまったくないわけでもないだろう。となれば「人間の精神」を特別なものとするのは、「人間」そのものを特別視するのと同じことで同義反復以外のなにものでもない。
 

 このように考えてくると、人肉食の禁忌には特別な根拠がなくなってしまう。人肉を食べないのは、単にうまいまずいの問題かせいぜい親近感をもったペットを食べないといった、「程度の差異」の問題になってくる。人肉と牛肉の間には、明確な境界がなくなってしまうのである。かくのごとく人肉食の恐怖には、うっかりすると境界を踏み越えてしまうかもしれないという不安がはらまれているのである。
 

 つぎのような、「事故死体などを食べた生物はうまい」といった話題もいくつかある。これは、間接的な「人体混入食品」とも考えられるであろう。
 


『海難事故後の蟹はうまい』
カニは人の死肉を食べるという話

 小生は、この話は真実で、しかも誰もが周知のことと思っていたのですが、『ピアスの白い糸』(白水社)に収録されている話に似た話でしたので、おそらく噂なのだろうということで、ここに記します。「海難事故が起こるとカニが美味くなる」という話なのです。

 なぜ、海難事故が起こるとカニが美味くなるのか、最初に聞いた時には疑問に思っていたのですが、自分なりにカニの味と重油との関係などを考えたものでしたが、聞けばカニは人の死肉を好むからだということで、納得した次第です。カニの味は人肉の味である、とまで言われました。聞いたのは、いつだったか。おそらく20数年前に、家で毛ガニを食べている時に父親から聞いたのだと思います。

 『ピアスの白い糸』では、「イカ」「シャコ」などの話として収録してありました。「イカ」の話は、北海道奥尻地震津波の後、地元の人々はイカを食べない、という話になっていました。この伝でいくと、カニは洞爺丸事件の後の噂なのかも知れません。となると、伊勢湾台風の後、東海地方などで伊勢エビの噂などがあるかも知れませんね。》
 

『シャコは人を喰う?』
《 や*ざ屋さんは「シャコ」を食べない、というのは当人から聞いたことがあります。重しを付けてトッポンする近辺に生息するのが「シャコ」だからという話でした。》
 

『事故死体を喰った鮭はうまい』
《 後、事件・事故の後の「○○は美味しい」というのだと、「大韓航空機撃墜事件」後の「サケ」というのがありました。これは誰でも思いつくらしく、死体がほとんど見つからなかった(と報道された)こともあって流行しました。》
 

 蟹、イカ、シャコ、鮭と海の生き物に片寄っている点が特長のひとつ。また、直接人肉の入ったものがおおむね「まずい」とされるのに、こちらが「うまい」というのもおもしろいところである。うまければ、あえてそれを珍重して食べる人がでてくるかもしれない。怖いところである。
 

*『現代伝説考(全)』はこちらから読めます
http://www.eonet.ne.jp/~log-inn/txt_den/densetu1.htm