マインドフルネスについての応答09

2014/11/13「うつ状態のメカニズム、どうしたら抜けられる?」
http://kosodatekyua.com/2014/11/utsujoutainomecanism-doushitaranukerareru/

>>Sasaki,Nobuo
November 13, 2014
 マインドフルネスの紹介記事を読みながら、これまでの私自身の生活歴や思考してきたことの”たな卸し”に活用させてもらってます。

 「するモード(doing-mode)」と「あるモード(being-mode)」との対比で、古典的な哲学的命題の「Sollen=当為」と「Sein=存在」の確執を思い出しました。カントの観念論あたりまでは圧倒的に Sollen が優位でしたが、近年の実存主義など以降もっぱら Sein が主題化されています。観念論が自己撞着をおこし中空に舞い上がってしまった反省としての批判なんでしょうね。

 「外の世界」での「するモード」では目標が設定しやすいし、そこに至る距離も測りやすい。一方「内面的な世界」では目標設定が抽象的曖昧になりがちで、「ハッピーになりたい」という例のように、目的が無限遠点になってしまう。つまり、無限が定規になってしまうと、今の位置も達成度も判定不能になってしまうんですね。過去も未来も永劫に「ハッピーじゃない」状態に置かれて、すべてネガティヴな世界にはまり込んでしまいます。こうなれば、ほとんど鬱の世界です。

 若いときのエピソードですが、友達と海に泳ぎに出かけました。すぐ対岸に小島が見えて、そこまで泳ごうじゃないかということになった。行きはよいよいで元気いっぱいに泳ぎ着いたが、曇り空で肌寒い天気、ゆっくりと休む暇もなく、すぐに戻るために飛び込んだ。かなり泳いだつもりだが、なかなか元の浜辺が近づいてこない。どれぐらい泳いだのかと振り返ると、すぐ目の前にさっきの小島がある。

 それまで疲労感もなかったのに、その距離感に愕然となった。それこそ目的地の元の浜辺が無限遠点に思われたのです。そのとたんに体全体の力が抜けて、溺れるような状態になった。もうだめだと思ってぶくぶくと頭を水面下に潜らせたときに、できることをやるしかないじゃないかと思った。ゆったりと大きく平泳ぎの手足を動かし、一定のリズムで繰り返すことだけを考えた。

 いわば瞑想で、凝り固まった意識を体の隅々にまで広げていくような形だったと思います。いま手足がちゃんとリズミカルに動いており、間違いなく水をかいており、このままで続ければいずれ岸にたどり着くという安心が体全体にただよってきました。

 これも「あるモード」への切り替えができた例かと思われます。「外の世界」はある意味で Sein そのものであり、あくまでも有限なはずが、「内面の世界」に取り込んだ瞬間に、それを無限問題にしてしまい、どこまでも Sollen の強迫観念に追われ続けることになるのでしょうか。

 「外の世界」は本来的に有限であり「するモード」が機能する世界であって、それに向けての努力は必要なことです。ところが、それが「内面的な世界」になったとたんに無限問題に取り込まれてしまい、機能不全に陥ります。そこで Sein から遊離して Sollen の魔術世界にはまり込むわけです。「あるモード」というのは、いわば Sein に同期するための契機とも言えるのではないでしょうか。「あるモード」の「7つの特徴」とは、まさにそれを示していると思います。
 

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>>長岡真意子
November 14, 2014
佐々木さん、いつも様々気づかされるコメントをありがとうございます!

こうしてマインドフルネスについてまとめていること、佐々木さんのこれまでの膨大な蓄積の「たな卸し」に少しでも利用していただけるなんて、もったいない言葉、光栄です。

目標を定め、現在地点からのギャップを埋めようと進む「するモード」というのは、確かに「こうあるべき」という「ゾルレン」に支えられていますね。対して、今この瞬間をあるがままに体験しようとする「あるモード」とは、確かにあるがままの存在をそのまま認めようとする「ザイン」であって。

「するモード」をそのまま「内面世界」に当てはめ、「目標」を定めようとするなら、「無限遠点」になってしまいがちだというの、なるほどです。そうして、目的地への道程も曖昧となり、どれほど進んでいるかも、自分が今どこでどうしているのかさえもぼやけてしまい、出口のない迷路の中で絶望してしまう。

海での遠泳の思い出、とてもわかり易かったです。島から岸までの距離感を失い、もうだめだとまさに溺れる瞬間、ゆったりと力を抜き大きく手足を動かし、一かき一かきのリズムの繰り返しにフォーカスすることで、何とかなるかもしれないという安心感に包まれていったと。マインドが一旦陥った「もうだめだ」という状態から、手や足がリズミカルに動いているという事実に気がつき、身体全体へと意識が行き渡ることで、結局、岸に辿りつくことができたのですね。

よかったです、たどり着かれて。途中ドキドキしましたよ。(笑)

本当に、この海での出来事、まさしく「するモード」から「あるモード」へシフトしていったともとらえられますね。

>「外の世界」は本来的に有限であり「するモード」が機能する世界であって、それに向けての努力は必要なことです。
目標を設定してそこへ向かう努力と、今この瞬間をまるごとそのまま捉えるのと、「するモード」と「あるモード」のそれぞれの七つの特徴を自覚しつつ、バランスを取っていけたら、そう思っています。「あるモード」を散りばめると心がけることで、随分と日々が豊かになってきたように感じています。やるべきことが山積みで、忙しく目が回るときこそ、救われますね。

ありがとうございます。こちら金曜日、朝から子供達のクラスに付き添い、プールです。(笑) 佐々木さん、ゆったりと週末をお楽しみくださいね!