野坂昭如、逝く 01

野坂昭如、逝く 01】
 
 脳梗塞に倒れて以来、ながらく闘病中であった野坂昭如が亡くなった。いち早く追悼記事をFacebookに挙げておいたが、関連して、野坂も被告となった戦後猥褻裁判について整理してみたのを転載しておく。

 戦後民主主義下で争われた猥褻文書裁判で、いずれも有罪罰金刑という決着だったが、それぞれの時代を反映した論争が重要である。

1.チャタレー裁判
D・H・ローレンスの小説『チャタレー夫人の恋人』、伊藤整の翻訳が対象となった。原著の英国では、階級社会イギリスでの階級間の不倫恋愛がセンセーショナルとなったが、我国では、ひたすら細部の性描写だけが話題にされた。

2.悪徳の栄え裁判
マルキ・ド・サド悪徳の栄え』を、澁澤龍彦が抄訳したもの。澁澤は、サド侯爵を本格的な文学者思想家として日本に紹介した第一人者であり、そのマニアックな博識は、いまも多くのファンを擁している。

3.四畳半襖の下張裁判
ニューヨーカー誌をまねて、都会的でモダンなセンスを目ざした『面白半分』という雑誌が発刊され、当時の著名作家などを一年交代制で編集長に起用していた。野坂昭如が編集長のときに、伝説的な猥褻書で永井荷風の匿名での戯作と噂される『四畳半襖の下張』を全文掲載(とはいえ10頁程度の短文)した。『エロ事師たち』などの作品がある野坂だが、これは編集責任を問われた裁判であった。

逝く年や 昭和は遠く なりにけり [何爺]

【それぞれへの個人的な記憶】

1.チャタレー裁判
 英語の副読本として「チャタレー」の抜粋本を買ってきて、一石二鳥?を狙ったが、とても手に負えず数行で放置、二兎を追うものは・・・(笑)

2.悪徳の栄え裁判
 高校生ぐらいだったので、話題の澁澤龍彦の新書本「快楽主義の哲学」とか、適当に書き散らしたようなエッセー集を買って読んでた。クラスのだれかれが、その書名につられてひったくって回し読み、どこへ行ったか行方不明になってしまった。みな、エロ本と勘違いしたんだろな(笑)

3.四畳半襖の下張裁判
 「面白半分」のこれが掲載された号は、実は手元にあります。狙って買ったわけではなくて、発刊以来購読してたら、たまたま発禁になったので残してあるw
 それとなく借りた四畳半の部屋、破れたフスマから下張りの紙が見えていて、何気なく読むとこのような文が書いてあった、という風な書き出し。
 本文は擬古文の文語体、とてもエロなど感じられる余地もない。しかも「大腰にスカスカと四五度攻むれば、、、」とか随所に擬音語が挿入されて、荷風の意図したユーモアさえ感じられる。これを猥褻と判じた裁判官は、よほど古文に熟達した人物だったのであらふ(笑)