【第三の男】”The Third Man”

映画【第三の男】”The Third Man”

 

監督 キャロル・リード 原作/脚本 グレアム・グリーン 出演  ジョゼフ・コットン/オーソン・ウェルズ (1949/英・米)

https://www.youtube.com/watch?v=2wlKhPtq5J8 (trailer)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC%E4%B8%89%E3%81%AE%E7%94%B7 (wikipedia)

f:id:naniuji:20200417091400j:plain

 第二次大戦終戦直後、米英仏ソの四カ国による分割統治下にあるウィーンを舞台に、親友ハリー・ライムを訪ねてきたアメリカ人の三文作家ホリー・マーチンスを中心にして、謎の男ハリー・ライムをめぐるサスペンスが展開される。オーソン・ウェルズ扮するハリーは、物語の中盤までいっさいその姿を見せない。

 

 ハリー・ライムに招かれてウィーンにやって来たホリーは、そのハリーが事故死したと知らされ、その死に疑惑を抱いたことから事件に巻き込まれてゆく。映画は、ホリーが探偵役を担う形で進められる。ハリーを犯罪人として追いかける英人MPのキャロウェイ少佐や、ハリーの恋人で女優アンナ、そして没落貴族らしき男爵や実業家風の謎のルーマニア人、さらにハリーの主治医などいわくありげなハリーの関係者が登場し、やがてハリーは闇稼業に手を染めており、人命にもかかわるインチキ医薬品の密売で稼いでいたことが分かって来る。

f:id:naniuji:20200417091421j:plain

 映画中盤になって、やっとハリーが姿をあらわし、闇にもぐって生きていることが分かる。ハリーの替え玉を事故死させたときに、遺体を運ぶ男爵とルーマニア人以外に、その場で目撃されたもう一人の男が「第三の男」ハリーだったというわけである。以降、サスペンスは急展開するのだが、第二次大戦直後で連合軍占領下にあるウィーンは、闇屋が暗躍しており、同じく敗戦国日本の戦後闇市を髣髴させて興味深い。

 

 また、英人MP少佐やホリーがハリーを追い詰めてゆく、ウィーンの街の地下に迷路のように張り巡らされた巨大下水道は、ハプスブルグ家の都として繁栄した華の都ウィーンの、一方の歴史の暗部を象徴しているようで面白い。また、子供のころ太っちょでいじめにもあった大男のオーソン・ウェルズは、どうみても俊敏そうには見えないのだが、地下下水道の逃走シーンでは、モノクロ映像でのライトニングなどの映像技術で、サスペンスのラストシーンを飾っている。

f:id:naniuji:20200417091512j:plain

 映画「第三の男」は、フィルム・ノワール(暗い映画)に属する作品とされる。フィルム・ノワールはフランス語だが、1940年代前半から1950年代後期にかけて、主にアメリカで製作された犯罪映画を指し、ドイツ表現主義にも通じる影やコントラストを多用した映像で、行き場のない閉塞感が作品全体を覆っている。

 

 多くのフィルム・ノワールには、男を堕落させる「ファム・ファタール(運命の女)」が登場し、また私立探偵、警官、無法者などの役割も必須とされ、これらの登場人物は堕落または破綻の兆候を示していることが多い。それらはミステリー小説のプロトコルでもあるのだが、そういえば「第三の男」の原作・脚本はミステリー小説の名手グレアム・グリーンであることもうなづけるところである。

f:id:naniuji:20200417091621j:plain

 オーソン・ウェルズは子供のころから傍若無人な性格の問題児で、かつ才能を発揮する天才児でもあったようだ。ウェルズは16歳で舞台俳優としてデビューし、その後もディレクター、演出家、俳優など多彩な演劇人として活躍した。1938年のラジオドラマでは、H.G.ウェルズSF小説の翻案「宇宙戦争」を放送する際、火星人襲来の臨時ニュースで始め、本物のニュースと間違われパニックを引き起こすという有名な事件を起こした。

 

 火星人襲来事件で有名になったウェルズは、ハリウッドに招かれ映画製作に携わり、新聞王ハーストをモデルに「市民ケーン」を製作すると、その画期的な構成と斬新な撮影手法が高く評価されたが、ハースト系の新聞による上映妨害などで、興行的には惨敗した。そのためハリウッドでの発言力は低下し、自分の企画が実現できない状況に置かれた。

f:id:naniuji:20200417091701j:plain

 その後ウェルズは、活路を「存在感で見せる怪優」に見出した。演技力だけでなく、ウィットに富んだ台詞を自身で考え、それらは「第三の男」のハリー・ライム役で遺憾なく発揮された。「ボルジア家の圧制はルネサンスを生んだが、スイスの同胞愛、そして500年の平和と民主主義は何を生んだ?・・・鳩時計だとさ」という台詞は有名である。

 

p.s.

 映画とは関係ないが、半世紀以上前の高校のフォークダンスの話。秋の体育祭の前夜祭として、グラウンドでキャンプファイヤーを焚いてフォークダンス大会が催される。なぜかフォークダンスだけは、女生徒の方から誘いを掛けるという不文律があって、事前に誘いが掛からない男子は、ひたすら微かな期待を残して自宅で待ち続けるという、悩ましい時を過ごすことになる。

 

 流れるダンス音楽はオクラホマミキサー、マイムマイムなど定番だが、大会のラストになると、この「第三の男」の曲に合わせてのダンスがあり、他のにくらべてダンスが難しかった記憶がある。それが終わるとフィナーレとなって、カップルは肩を組んでそばの大寺院の真っ暗な境内に消えてゆくという、変な高校だった(笑)

f:id:naniuji:20200417094919j:plain

 それはさておき、「第三の男」の曲はこの催しの時に初めて聞いたわけで、間違いなくフォークダンスに使われていたはず。しかしネットなどでたずねてみても、「第三の男」のフォークダンスを知っているという人はひとりも現れない。わが母校だけのオリジナルだったのだろうか?