【現代カー伝説04「車とジンクス」】

 車が高速で移動するかぎり事故はつきものである。そして事故を避けたいという人間の心理は、現代人に神頼みをもさせる。交通安全祈願のお札はだれの車にもぶら下がっているはずである。さらには、なにげなく飾っているミラーマスコットのたぐいにもそれなりの意味あいがあるらしい。

 

『ミラー・マスコット』
《 ちなみに、自動車のバックミラ−にマスコットをぶらさげる習慣はひとりでドライブするときに妖怪をちかづけないための現代呪術だというはなしを池田弥三郎先生が書いておられたように記憶しています。》

 現代文明を代表する自動車と妖怪とはいかにも奇異な感じがするが、これまで検討してきたことを振り返るとけっして不思議なことではない。車と妖怪・霊のむすびつきは、現代カー伝説というひとつのジャンルを形成するほど密接な関係をもっているのである。

 昔の旅人たちも、見知らぬ土地を旅するときにはどんな魔物と出くわすかもしれなかった。旅立つときに火打ち石を打って無事を祈った習慣からしても、それなりに道中での魔物よけの工夫もあったはずである。そのような慣習が、現代の車のマスコット人形として引き継がれていると考えてもおかしくはないであろう。
 

『警官よけのステッカー』
《 車に、世界は一家とか北方領土返還とかのステッカーを貼っていると、警官は多少の違反は見のがしてくれる。よく聞く。》

 交通違反が犯罪行為であるという意識はかなり希薄であろう。違反で捕まるのが単なる不運だということになれば、できるだけそのような不運を回避したいと考えるのが人の常。となれば、突然現れて違反キップを切る警察官は「悪さをする現代妖怪」と見なされてしまうのであろうか。
 

 直接の搭乗者の側からではなくても、車にちなむジンクスのたぐいはたくさんあるようだ。

『霊柩車を見ると…』
《 これは異常にポピュラーな噂なのだろうが、
「霊柩車を目撃するとその日はいいことがある」
というのがありますね。逆に「悪いことがある」という地方もあるようですが。》
 

 日常生活のなかでは忘れている「死」も、街中で霊柩車と遭遇すると突然に思いおこされる。そのような不吉な想念を意識から遠ざけるために、「霊柩車のジンクス」はそれなりの役割をはたしているのかもしれない。好運と不運の両方のジンクスがあるというのもおもしろい。「幸福と不幸は紙ひとえ」という諺をも思いおこさせる。
 

 霊柩車のジンクスは、ほかのジンクスとも結びつきやすい。


『霊柩車を見ると親指隠す』
《 親指を隠すと言うお話ですが、私は小学生の頃に霊柩車を見たら親指を隠さないとダメと聞きました。理由は同じで親が早死にするからだそうです。お葬式やお通夜では聞いたこと無いですね。いまでも霊柩車を見るととっさに親指を隠してしまうんですよね、習慣とはおそろしい^^;でも夜に平気で口笛吹いてますし、爪も切ってますが_^;
 バイクに乗っている時はあまり指を隠さない方が良いのでは・・・(^_^;)》
 

 宅急便などを中心に、ボディの側面にシンボルマークを掲げた商用車がたくさん走るようになった。そのようなマークからもジンクスが誕生する。

『佐川急便の赤フン』
《 トラックの側面の飛脚の赤い褌に触ると幸せになれる(金運に恵まれるというのもある)》

 「赤い褌の飛脚」のマークというのも、街中で見るのは奇異な思いになる。そんなちょっとしたことからジンクス話が発生するのであろう。そして、急速に成長した企業にたいするヤッカミや噂になったビジネス・スキャンダルの記憶などもともなって、さらに噂は発展していく。
 

『佐川急便のお兄さん』
《 ふむふむ、佐川急便の赤フンねぇ。運転してるイキのいいお兄さんのナニをさわらしてもらったら、もっとご利益あるかも。でも、こんな噂が全国的に広がったら、宅急便が遅れて困りますね。みなさん、けっして実行しないように(^^;。》
 

『佐川急便顔で採る』
《 佐川急便は面接でルックスを重視する。彼らは営業も兼ねているから、顔が大事なのだ! 結果、いい男が多い。(バブルの頃、OLから)》
 

 車のボディの特長ある形態やその色もジンクスとされやすい。

『赤いVW』
《 「フォルクスワーゲンのビートルを100台目撃すると幸せになれる(願いが叶う) 」「但し、赤のビートルを見たらそれまでの台数は全てチャラ」
 私は、「ワーゲンを見つけて」と女の子に頼まれて、赤のゴルフを見つけて教えてあげました。途端に「赤は駄目なの。今まで見たやつが駄目になっちゃうじゃない、馬鹿」と罵られて、次の瞬間、「あ、でもあれ、カブトムシじゃないでしょ?」と問うた馬鹿女に「あれはゴルフ」と親切にも教えてやった過去があります。
 「どういうのがワーゲンでワーゲンにも色々あること位知った上で縁起をかつげこの糞ブス」とは言いませんでした。あ、思い出して腹が立ってきた。》

 

 これは、若い女性や子供のあいだではかなり普及したジンクスであったらしい。街角での軽い遊び心をくすぐる噂であろう。カブト虫の愛称で一世を風靡したフォルクスワーゲンは、子供の目からも見わけやすい特長あるボディであった。また外国車特有の、国産車にはない色あいも目だつところである。そんなこんなで、さまざまなラッキーカラーやアン・ラッキーカラーが登場する。
 

『緑のVW』
《東京の城南地区の某高校では、赤いVWで御破算になるという暗いルールのほかに、緑のを見つけると一挙に+20台という特典が付いておりました。》
 

『空色のVW』
《 私の出身の北関東の某G県でも、VWの噂はありました。私が小学生の頃ですから、かれこれ20年くらい前になります(^_^;) いわゆるひとつの1970年代...。 その頃のVWのラッキーカラー?は、空色(水色)でした。空色のVWに乗った20人目のドライバーと目があって、お互いニッコリ笑うと、いいことがある、願い事がかなうという、たわいもないことでした。》
 

 最後に、車のジンクス・アラモード。

『車ジンクスさまざま』
《 えっと、いろいろと人から聞いて来ました。今から10年ほど前に九州は熊本の城南地区のさらにその下半分辺りでの噂です^^;
○郵便局の赤い車を3台見たらその日は良いことがある。
バキュームカーかコ○コーラの配送車を一日のうちに何台か(5台との説有り)見ると悪いことがおきる。
○黄色か白色のワーゲンを3台見ると良いことがある。

 あと霊柩車の話のバリエーションで
○霊柩車を見るとその日の夕飯は御馳走である。
他の例に比べると数があまいような気がしますね(^_^;)》
 

*『現代伝説考(全)』はこちらから読めます
http://www.eonet.ne.jp/~log-inn/txt_den/densetu1.htm