【異空間伝説05-2「自殺の名所」】

 


 自殺者の集中するメッカとでもいうべき場所が各地にたくさんある。投稿の話題に出てきただけでも三原山華厳の滝青木ヶ原東尋坊などなど、ふるくから自然の自殺の名所がいくつもある。それらの投稿でもふれられているが、自殺が自殺を呼び寄せるという傾向がある。ここでは高層住宅団地など、あらたにできた自殺多発地での噂の流され方をみてみよう。
 

『高層住宅での自殺者01』
《 うちのカミさんが今年の夏に、今は辞めているバイト先の不動産屋から仕入れて来た話。
 小生、かつて自殺の名所としてマスコミを騒がせた某高層住宅の住人で(ミエミエだ(冷汗笑))、こちらに移って以来2年間、自殺のうわさなど聞いたことがありませんでした。しかし、依然自殺はよくあるらしく、ただ入居者が入居に際して二の足を踏むのを恐れて、役所ぐるみ伏せているだけだそうな。「パトカーも救急車も、サイレンを鳴らさず出動するということか」などとトンチンカンな質問でカミさんを悩ませ、再度聞いてくるように頼んだのですが断わられました(惜笑)。

 こういう住宅は、人が密集しているわりに隣近所の交流が極度に希薄で、このことがこの手のうわさに奇妙なリアリティーを与える条件になっているような気がします。つまり確かめようがないということです。以前、確か3人目までが地元の人で、以後は外部から自殺者を呼び込むようになったというのを本で読んだことがあります。現在は、その本にも書かれていたように、玄関側の共用通路の手すりから上にかけて格子がはめ込んであり、屋上にも出られないようになっております。飛び降りようと思えば、玄関を入ってベランダからということにどうしてもなるはずです。つまり地元住民しか自殺は可能でない。

 疑問は尽きませんが、「やっぱり」のたぐいより「ウソでしょ、でも......」のような話の方が、一般には伝播力はあるように思います。》
 


 「情報の欠落が噂を増大させる」という法則がある。事実が伏せられる結果、噂がより増幅されるという状況は、この投稿者の手によって如実にしめされている。あえて長文を引用した所以である。つぎのレスポンスも同様の理由で引用させていただこう。

『高層住宅での自殺者02』
《 ぼくも11階建ての高層住宅に住んでいますが、飛び降り自殺のニュースはやはり完全に伏せられてしまいますね。「天井が剥がれて落下した」とか「火事になった」という話は必ず掲示板などにお知らせが出るんですが、自殺だけはたとえ衆人環視の中で起こっても黙殺されます。

 たとえば引っ越してきた最初の頃、したがってもう20年近く前ですが、うちの真下に未明に飛び降りた人がいて、新聞配達が死体を発見したそうです。その現場で線香を炊いてお坊さんが読経をしたので、事実であることが分かったんですが、正式発表がないもんですから、死んだのは男性だ、いや女子高生だとさんざん噂が飛び交いました。

 また、つい最近も午後の買い物をする奥さんたちで人通りの多い時間に、飛び降りた人がいて大騒ぎになったそうです。でも、やっぱり黙殺。》
 

 自然の名所が伝統的な自殺場所にえらばれたのだとすると、巨大な高層住宅群の無機的な景観は、現代の自殺者の無表情な心性をあらわしているといえよう。そのような人工の虚空間が、思いつめた自殺志願者の心をひき寄せる磁場をもち特異な空間として彼らの前にあらわれる。そしてまた、その噂を語りあう都市住民たちも、噂に接することで日頃は生活におわれて忘れている都市生活の無機質性を想い起こすことであろう。