『ダッチロールほか』

duck

『ダッチロールほか』

 日航ジャンボ機墜落事故の記事を書いていたら「ダッチロール」"Dutch roll"という言葉が出てきた。アヒルがお尻をふりふり歩く姿に似てるからという話しを聞いた気がしていたが、アヒルは"duck"でまったく違う。"Dutch"はオランダのことで、どうやらスケートの盛んなオランダ人の優雅な滑り方が、お尻をゆったり振っているように見えるところから来たようだ。

 そもそも"Dutch"はイギリス人がオランダのことを指していう言葉で、「Ducth wife ダッチワイフ」「Dutch treat(account) 割り勘」「Dutch gold イミテーションの金」などと、ろくでもないことに使われている言葉が多い。大航海時代後半、イギリスとオランダは激しい覇権争いをしたライバルであり、北海を間に向き合った隣国同士、「仲の悪いお隣さん」というよくある現象の一つだろう。

 もともとイギリス人は、大陸北部のドイツ語系の言葉を話す人やその住む地域を、漠然と"Dutch"と呼んでいたらしい。それが近代になって、オランダと激しく競うようになったころから、今のオランダにしぼられていったようだ。そのオランダ語で"Duits"が、となりのドイツを指し、そのドイツでは自国のことを"Deutsch"と呼ぶというわけで、もう訳の分らない様相を示すが、それぞれ語源は同じで、それぞれの都合で微妙にニュアンスが異なってくるわけである。

 オランダは自国オランダ語で"Nederland"(低い土地)で、英語綴りは"Netherland"となり、れっきとした正式名称がある。それが別に"Dutch"という語があるのは、上記のように「イギリス(外)から見た」呼び方だからだ、できればオランダ人が自分のことを"Dutch"呼ぶかどうか、聴いてみたい(笑)。ではなぜ我われ日本人は「オランダ」と呼ぶのだろうか。

 大航海時代に日本にもたどり着いたポルトガル人が、ポルトガル語で"Hollanda"と伝えたことから始まり、ラテン語系の発音では"H"の音が落ちるので「オランダ」になったとさ。もともと"Holland"(オランダ/ホラント)はこの国の一つの州の名であり、オランダ王国の中の中心的な州なのである。イギリス帝国(大英帝国"British Empire")のことを、その一構成国イングランド"England”で代用するようなものか。

 おそらくスコットランド人やウェールズ人は、自分のことを"English"と呼ばないだろう。同様にオランダ人に"Hollanda"と呼びかけたら、我われが「オマエはヤマトか?」と言われるような感じなのかもしれない(今なら「トーキョー」か)。さらに"Deutschland"がなぜ英語名"Germany"なのかとか、「支那と中国」「朝鮮と韓国」などなど、それぞれの歴史的経緯と、自称か他称かの違いで、様々なニュアンスが込められていて複雑怪奇であります(笑)