【京都の三大漬物/すぐき】

【京都の三大漬物/すぐき】

 

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 京都の三大漬物といえば、「柴漬」・「千枚漬け」・「酸茎(すぐき)」となるだろう。柴漬や千枚漬けは、いまではほぼ全国に出回っていると思われるが、「すぐき」はなかなか手に入りにくかった。すぐき蕪(かぶら)の乳酸発酵漬物なので、発酵をすすめないで、長期間、同じ品質を保持するのが難しいのがその理由である。

  「すぐき」は、その独特の酸味が特徴なのであるが、その味になじみのない人が多いので、例えば関東の知人に贈ったところ、腐っていると思って捨てた、などという笑い話もあったぐらいだ。 

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 この「酸茎(すぐき)」ないし「酸茎漬け(すぐきづけ)」は、伝統的な京漬物で、京都市北区の「上賀茂」と呼ばれる地域の特産となっている。この地域のみで栽培される「酸茎菜(すぐきな)」または「酸茎蕪(すぐきかぶら)」の葉とかぶらを原材料として、独自の製法で漬け込んだものである。

 「冬はいみじう寒き、夏は世に知らず暑き」と清少納言枕草子にしたためた京都の気候に育まれるように、すぐき菜は夏の終わりに種蒔きされ、11月下旬ごろから12月初旬に収穫される。12月になると、上賀茂地域の農家の軒先では、独特の「すぐきの天秤押し」があちこちで見られ、丸太棒の先に重石をくくりつけてテコの原理で圧力をかけた樽が並ぶのが、上賀茂の冬の風物詩となっている。

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 上賀茂神社から流れ出た明神川が流れる上賀茂本通りには、社家(しゃけ/上賀茂神社神職を出す家)がたち並び、独自の景観をかもし出している。その社家並びの向かい側には、300年の伝統をほこる「御すぐき處京都なり田」が門をかまえ、その威厳のある店の雰囲気は、一見、入りにくい気さえするが、入ってみれば納得できる店である。

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  上賀茂本通りと北山通りに挟まれた一帯は、かつて畑地がひろがり、すぐき菜が栽培されていたが、いまではほとんどが宅地化されている。昭和30年代半ば、進駐軍の居住地として接収されていた府立植物園が返還され整備が始まると、畦道しかなかった植物園の北側に北山通が通され、加茂川に北山橋が架けられ、それを機会に一気に宅地化が進められた。

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 わたしが子供の頃には、上賀茂・西賀茂の農家のおばさんが、毎朝、綿がすりにモンペ姿で、大きな大八車を曳いて野菜を「振り売り」に来ていた。夏場は朝採りの茄子に胡瓜、そして子供の頭ぐらいある大きなトマトなどを積んで来て、子供たちは井戸水で冷やしたトマトに塩を振るだけで、かぶりついたものである。

 そして、冬場から春にかけては、白菜、大根などともに、漬けこんだすぐきを樽ごと積んできて、葉の部分は切り落として、株の部分だけ目方を量ってくれる。もちろん葉も必要なら、無料でくれたと記憶している。夏場のトマト、冬場のざく切りしてお茶漬けで食べるすぐきは、いまでも忘れられない味覚だった。