フランケンシュタインと英語の絵本

monstor

フランケンシュタインと英語の絵本】
 
 『フランケンシュタイン "Frankenstein"』は、イギリスの小説家メアリー・シェリーが1818年に匿名出版したゴシック小説であり、SFやホラー小説の先駆でもある。原題は『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス "Frankenstein: or The Modern Prometheus"』であり、「フランケンシュタイン」とは、人造人間の怪物そのものではなく、それを創り出した若いスイス人科学者の姓であった。

 原作を読むことはなかったが、学生時代に京都の丸善書店を徘徊していたとき、絵本コーナーに、少年向けにコンパクトにリライトされた小冊子の絵本があった。英国の出版社によるもので、やさしい英語で書かれているので、ちょうど英語学習によいと思って買った。"ALICE IN WONDERLAND"とともに、そのとき買って読んだのが"FRANKENSTEIN"だったのを、懐かしく思い出す。ちなみに私の英語力は、そのころ以上に進むことはなく、今はむしろ退化中である(笑)
 


 「フランケンシュタイン」は、1910年の初回以来何度も映画化されているが、最もイメージが浸透しているのは、1931年のアメリカのユニバーサル映画製作『フランケンシュタイン "Frankenstein"』だろう。ボリス・カーロフ演じるモンスターは、フランケンシュタインの原イメージとなっている。

 以後何度も映画化され、近年では、『フランケンシュタイン "Mary Shelley's Frankenstein" 1994年』、フランシス・コッポラのプロデュースで、ロバート・デニーロ演じる人間臭いモンスターが特徴である。原題からも分かるように、メアリー・シェリーの原作に忠実というコンセプトで創られた作品であり、モンスターはその怪異な容貌に似合わずシャイで、自身の外形との矛盾に引き裂かれる内面の悩みを抱えた、現実の人間以上に人間臭い「怪物」であった。

 

 「フランケンシュタイン」には、「ディオダティ荘の怪奇談義」と呼ばれる誕生秘話がある。1816年、スイスのレマン湖畔に詩人バイロン卿が借りていた別荘に5人の男女が集まり、それぞれが創作した怪奇譚を披露しあった出来事がそれである。

 ジョージ・ゴードン・バイロン男爵、いわゆるバイロン卿がその中心人物で、ロマン派詩人として盛名であるとともに、見さかいなき恋愛事で、近親相姦、同性愛などスキャンダルまみれでもあった。バイロン卿は、彼の主治医であり、彼の同性愛の相手ともされるジョン・ポリドーリを同伴して、ディオダティ荘に逃避していた。

 一方メアリーも、不倫相手の詩人パーシー・ビッシュ・シェリーと駆け落ち中であり、すでにシェリーとの子を宿していた。さらに、メアリーの義妹であり、バイロン卿の愛人で、彼の子を身籠っていたクレア・クレアモントも同行し、ディオダディ荘に合流する。

 もはやグダグダの関係の5人が集まり、冷夏の長雨にたたられ外出もままならない中、退屈をきわめていた。生活破綻者でありながら才能豊かな彼ら彼女らは、ひたすらSFチックな怪綺談にふけっていた。そんな中で、バイロン卿が、各自で怪奇譚を書こうじゃないかと提案した。
 

 バイロン卿は短いエピソードを書き、主治医のポリドーリが小説として膨らませ、バイロン作の短編として発表した。これが話題になった『吸血鬼 "The Vampyre" 1819』であり、有名なブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』に半世紀以上も先行した吸血鬼の物語だった。


 パーシー・シェリーは途中で投げ出したが、メアリーはその後もこつこつ書き続け、1年間かけて長編小説として完成させた。それが『フランケンシュタイン、或いは現代のプロメテウス/1818年』である。今日では1831年の改訂版がおもに出回っているが、その時の挿絵のモンスターは、現在イメージされる怪物とはかなり違ったものであった。

 作中での怪物は、単に「クリーチャー(生き物)」または「モンスター(怪物)」と呼ばれ、特定の名は付けられていない。この怪物が「フランケンシュタイン」として、製作した若い科学者の名前と混同され、ボリス・カーロフ演じる怪物のイメージで定着したのは、やはりこの1931年の映画以降であろうと思われる。