【異空間伝説02-2「寮・下宿」】

 

 学生などの寮や下宿も、同年輩の単身者が同じようなつくりの個室で生活するという同質性をもっている。若者のひとり暮らしということでそれなりの孤独感が強いであろうし、自殺者なども比較的でやすい環境にある。また同じような構造の生活空間にあるということは、噂を共有し伝えやすいともいえる。
 

 自殺者を発生源にした噂を二例をあげる。まずは、開かずの間という「いわく因縁」に結びついた事例から。

学生寮の開かずの部屋』
《 今から7年ぐらい前の話
 S賀大の,学生寮が芹川河口の橋の右岸に建っています。そこの103号室は,昔そこで自殺した学生がおり,私が学生の頃誰も入っているものがいなくて,ドアーが開かないということです。   話者 30才ぐらいの男性》
 


 また自殺者の幽霊がでるというのも典型的な噂であり、それが現在寮として使われていない理由になったりもする。

『元女子寮の幽霊』
《 資料館の幽霊
 現在資料館として使われている建物は以前は女子寮だったそうで、二人で一部屋の普通の寮でした。あるとき、作品のアイディアを盗んだとか盗まないとかで同じ部屋の二人が争い、疑われた方の女学生が自殺したそうです。以来、幽霊がでるとか。》
 

 自殺者以外の噂もひとつあげておこう。

『押し入れから手が』
《 そういえば、下宿してる時代の話しを思い出しました。ワンルーム・マンションなんかない頃ですから、襖ひとつで仕切られた下宿屋です。下宿のおばさんが、ときどき気をきかして学校へ行った下宿生の部屋を掃除してくれてたんですが、ある学生の部屋の押入から、どうも変な匂いがする。空けてみると、ダンボール箱の中から人間の腕が、にゅーーーっと・・・。


 もちろん、おばさんは腰を抜かしてフガフガー(^^)。医学部の学生で、解剖実習用の「腕」を持ち帰ってたそうで、そこの下宿生の間だけでで「ローカル伝説」となってたようです。》
 

 学生寮・下宿ともに人の入れ替わりははげしいが、先輩から後輩へと語りつがれて独自のローカル伝説を形成する。このような噂を共有することで、めでたく共同体の一員としてみとめられるのであろうか。古老から子供たちへと語られたかつての在郷伝説の、ある種の縮小版とみなしてもおもしろいとおもえる。
 

*『現代伝説考(全)』はこちらから読めます
http://www.eonet.ne.jp/~log-inn/txt_den/densetu1.htm