縁切り伝説について

benten-ike

5-3.縁切り伝説

 この節で最後に取りあげるのが「縁切り伝説」のある特異空間である。その場所で男女カップルがデートをすると縁が切れるという噂であって、特にストーリーのある伝説というよりはほとんどジンクスに近いものである。まずは有名な井の頭公園の別れ伝説の紹介から。

『#253-7井の頭公園の縁切り伝説』
《●カップルでお参りしてはいけない場所 …ってゆーと、関東でメジャーなのは、通称「縁切り寺」だと思うのですが、バラバラ事件のあった(^_^;)井の頭公園の弁天様も、霊験あらたかだそうです。 もともと弁天様は、未婚の女性の神様なので、夫婦や恋人が揃ってお参りすると嫉妬されるので、良くないとか?(だったら、全国の弁天さまに同じ逸話が有るのかな?)正しいお参りのしかたは、男女バラバラに、時間差をつけて行くのだそうです。》

 このほか投稿にあわられた場所をすべて羅列してみよう。
 東京井の頭公園弁天池・埼玉大宮公園のひょうたん池・東京ディズニーランド・津田梅子のお墓・関東の通称「縁切り寺」・京都嵐山の渡月橋・京都植物園・大阪万博公園エキスポランド・神戸ポートピアランド・名古屋東山公園「東山タワー」・太宰府天満宮伊勢神宮

 どれもこれも各地の行楽観光の名所がずらりとならんでいる。若い男女がデートをする場所なのだから当然のことである。また、その多くのカップルがその後なんらかの理由で別れていくのも自然のながれであろう。とすれば、多くの観光名所に縁切り伝説があるのになんの不思議もない。

 しかしここでは、そのような噂の存在の合理的な理由をみつけるのが狙いではない。むしろ噂とは、しばしば非合理な状況から発生し伝播していくものである。またそのような非合理性にむけて、それなりの納得をあたえる役割をももっていることが多い。

 恋愛に終局があるのは事実だとしても、いままさに恋愛中のカップルにとって別れにおもいをむけるのは不合理なことだ。また恋愛そのものが多くの偶然によりはじまるのと同じく、両者とも納得のいくような別れがあるわけでもないだろう。これらはそもそも、恋愛そのもの自体にはらまれている偶然性であり非合理性であろう。

 とすれば、そのような偶然性に支配されている恋愛に、さまざまな占いやジンクスがともなっているのも不思議ではない。恋い占いに熱中する男女があれば、その一方で別れにささやかな理由づけをしてくれるジンクスも必要なのかもしれない。水の上に浮かぶ木の葉のような不安定な状況では、タロットカードの恋い占いに願いをかける少女もいるだろうし、弁天さまの嫉妬に別れの原因をみつけて苦笑する男の子がいてもおかしくはないであろう。

 投稿中で、別れ伝説を取りあげた資料も紹介された。

『#134-1縁切り場所アラカルト』
現代風俗研究会の年報『現代風俗'92 恋愛空間』で、岩井正也さんが「別離伝説のフォークロア」というのを書いておられます。カップルが別れるといわれる場所についての噂を、弁天さんなどの女の神様に起源を求めたりしていますが、おもしろいのは噂を集めたデータです。関西では嵐山・エキスポランド・ポートピアランドなど、東京近辺では井の頭公園東京ディズニーランドなど、あと伊勢神宮などがあげられています。ボートがあるというのがキーになっているでのはという推理をされています。そこへいったときの救済方法についての噂もあるようです。各地の噂を集めたら、このジャンルだけでもおもしろいかもしれませんね。ご参考までに。(リブロポート 1991.11.30 発行 ISBN:484570686 / 2,474 円)》

 この資料にはまだ直接あたる機会がないが、ボートのある場所という指摘は興味深い。前にあげたジンクスのある場所をざっと見わたしても、ほとんどが水とむすびつけることができる。そして、その多くには遊覧用のボートがあるようだ。さきに恋愛心理を水にただよう木の葉にたとえてみたが、ボートそのものが木の葉と見なすこともできる。恋愛の不安定な心理状態とボートをむすびつけるのも、ひとつの視点ではなかろうかとおもう。

 ここでも水にたいする解釈が重要なポイントだとおもわれる。水の分析はあとの章の課題となるが、ここでは、海ではなく池・川といった陸水がほとんどであることを指摘しておこう。