現代伝説考27

マルクス万歳と書けば通ったのに・・・

4.著名人・職業柄・県民性
4-1.著名人伝
 特定の著名人が、その個性のただよわせる雰囲気と結びつけられて噂となることもよくあることだ。だれでも知っている有名人であるだけに、ちょっとした笑話として流布しやすいところがある。

『#131-2市長選挙に出る梅原猛氏』
《京都ではここ十数年以上、市長選挙が近づくたびに梅原猛が出るという噂が流れる。》
 この種の範疇ではやはり、TVなどで顔が知られている芸能タレントの噂が圧倒的である。「首チョンパ事件で超安値で売りにだされた呪いのソアラは現在伊那かっぺいが乗っている」とか、「引っ越しのさい、小泉今日子の部屋のソファーからコンドームが発見された」とか、この手の噂を集めだせばきりがない。タレントネタで一世を風靡したものといえば、なんといっても「天地真理伝説」であろう。

『#131-4天地真理伝説』
《昔、天地真理ネタが流行りました。ソープにいたとか、あぐらを欠いてタバコを吸っていたとか、産婦人科で見たというやつです。京都市左京区のローカル・ネタでは、沢田研二ネタ、杉本彩ネタをよく聞きます。》
 「アイドルスキャンダルの雛形」としての「天地真理伝説」については、前掲書『うわさの本』にくわしい。

 皇室を素材にした噂のたぐいは戦前・戦中にさえあったようだが、ことの性質上おもてには出てきづらいところがあろう。それにしても、菊のカーテンと呼ばれるほどの情報管制下にあるだけに、情報の欠落がかえって噂を発酵させやすいところがある。

『#132-2皇太后さまの病気』
《某・国立大学共同利用機関助教授に聞いた話(女性週刊誌調に翻訳すると)
太后さまの、ご高齢特有のご気分の不調は、実は、30年以上前から発症していた。このご病気は、ご本人がそのおつもりがなくとも、同じことをくりかえしたり、人のせいにしたりと、悪意があるように見えてしまう。それで、皇后さまがいじめられているように見えるそうだ。》
 文士・文人の奇行も、いくたの噂を生みだしている。思いつくところだけあげても、永井荷風坂口安吾南方熊楠内田百輭といくらでもあるだろう。現代の文筆家は比較的個性が少なくなってきたきらいがあるが、それでも伝説の人は存在している。

『#232-3奇人荒俣宏氏』
《そうそう、この荒俣宏氏がなぜ奇人か、というのも現代の伝説ですよね。南伸坊氏が書くところによれば、妖怪『アラマタ』の命名者は水木しげる氏だということで、曰く「主食は『たい焼き』であり、『たい焼き』しか食わない」とか、曰く「荒俣さんは、居候の場所が確保できていなかった時には、深夜喫茶で夜を明かしていたらしい。深夜喫茶のインベーダー・ゲームのあのガラステーブルに丸くなって寝ていたっていう話だ。」とか、曰く「新宿で待ちあわせをしてたら、電話がかかってきて、今、池袋で、これからすぐ行くって聞いてから、なかなか現われず、一時間後にやっときて、実は池袋から歩いてきたっていう話だ。」とか、いろいろと伝説があるようです。荒俣宏著『奇っ怪紳士録』(平凡社ライブラリー)の解説にありました。》
4-2.職業柄
 職業の性格からくる特長を笑いの素材にした噂もよく見うけられる。警察官や大学教官の話題が多くみられたが、やはり権力や権威の威圧感とそれに対する抵抗意識が笑話を形成しやすいのであろう。

『#129-1サーフボードを積んだ覆面パトカー』
和歌山県の国道には、フェアレディの2シーターで、上にサーフボードを積んだ覆面パトカーが走っていて、私服の男の警官と婦人警官が乗っている。15年ほど前、河内長野出身のバイク乗り、学生、20才くらいに聞きました。》
 なんとなく古風な体質を感じさせる警察官と、きわめて今日的なサーファー風俗との取りあわせのミスマッチがおかしい。

 つぎに、とぼけた警察官ネタを二題。

『#129-8助手席を飲酒検問する警官』
《ある人がホンダ・アコードの輸出仕様車を逆輸入して乗っているのだが、ある日、飲酒して、友人を乗せて走っていたら、飲酒検問に引っかかった。近づいた警官は、助手席側(右側)の窓を開けさせ、飲んでいない友人に、ハーと言ってくださいと言い、はい結構ですと言って通してくれた。》
『#129-9ネズミ捕りにかかった部長刑事』
《大阪の朝日放送には部長刑事という番組があり、かつては部長刑事の役は、大阪の俳優が長年やっていた。その人が、ネズミ捕りに引っかかった。やってきた警官は、彼の顔を見るなり、敬礼して、失礼しました。ご苦労さまです。どうぞ。と言って、通してくれた。》
 「警察官はスケベである」というテーゼにそった話題もよくある。

『#106-6警官とノーパン喫茶
《元祖ノーパン喫茶の『モンローウォーク』が京都市北区にあったのですが、そこに抜き打ちの強制捜査が入った時に、客に警官の上司がいて、摘発が見送られたという話。その店に居合わせたという学生の目撃談として聞きました。この話は、ストリップ劇場でナマ板の客をやっていたのが警官の上司、というのもありました。》
 つぎのは、観光都市かつ学生の街・京都ならではの笑話。

『#106-9時代祭のバイト学生の話』
《昔話として先輩に聞いた話です。時代祭のバイト学生が、警備の機動隊員と顔を見合わせて苦笑いしたという話。時代祭(10月22日)の前日の10・21国際反戦デーのデモで睨み合った機動隊と学生だったというオチです。これは大森一樹監督の映画『ヒポクラテスたち』の中でも紹介されていた逸話ですので、本当のことだったのかも知れません。》
 学生といえば、試験をめぐる教師と学生の話題も多かった。

『#106-11試験の際の伝説の数々』
《○○教授の試験は『マルクス万歳』と書くと通るとか、『カレーライスの作り方』を書いて提出した学生がいて、良だったのだが、それに不満を持ち、教授に理由を聞きにいくと、教授曰く「ジャガイモが入っていなかった」と答えたとか(最近読んだ元京大の森毅氏の本にも書いてありましたから、京都では有名だったのかも知れません)。》
『#141-5教授の採点法』
《試験の採点はいろいろ噂がありますね。東大にもいろいろあるようです。
カレーライスのジャガイモの話もありました。
レポートを階段の上から投げて、遠くまで飛んだのが優という先生もいたそうです。
「よく書いてあれば鉛筆の粉の量が多いので重く、従ってよく飛ぶはずだ」という理屈だそうです。さすがに文系の先生だったようですが。
他にも、息子(東大生)が父の採点している学生のレポート読んで「これつまらないね」と言ったら、「そうか、優をやろうと思ったが可にしておくか」と言った話。
これはその息子がうそをついていない限り実話です。》
4-3.県民性
 「中国人の食欲」や「ペット犬を食べる香港人」など、その国民性や文化風土の違いが噂の素材になりやすいことは前にあげたとおりである。むかしから「伊勢こじきに近江あきんど」といわれるように、日本各地の県民性も笑話の対象となりうる。ヨーロッパでドイツ人やオランダ人が笑い話のネタになりがちなように、勤勉さがかえってアダになりやすいようである。

『#32-3佐賀県人伝説』
《「佐賀県人の通った後にはぺんぺん草も生えない」
 という決まり文句を、去年長崎と福岡で続けざまに聞いて印象に残っているので、これもひとつの「伝説」かな、とも思いご紹介します。
 長崎では、某長崎の地方新聞の役員が、福岡では某メーカーの福岡支社長と、彼の主催するこぢんまりとした宴席でふぐちりの世話をしていた仲居さんが、それぞれそう言っていました。どうも九州ではポピュラーな「伝説」らしいです。
 彼等の話を総合すると、佐賀県人は、「勤勉でがめつい」のだそうで、面白かったのは、ふぐ屋の仲居さんが、
 「私や私の知り合いが佐賀県人のそうした性質のために如何に迷惑を蒙ったか」を延々と話したことです。この「話」自体が、多分伝聞を多く含む「噂」になっていると思われます。》
『#40-1近江商人伝説』
佐賀県人の話ですが,関西では<近江商人バージョン>でいわれているようです。
私は,富山県出身ですが,売薬さんにも,同じ様なことがいわれていたと記憶しています。》
 最近、関西のどろくささをベタベタに出したCMが関東地域でも放映されて、その売上がが50%増にもなったという。また、現金数千万を常に持ち歩くというディスカウントショップの老社長がブラウン管を賑わせたりもしている。関西商法のどぎつさもなども恰好の奇人変人伝説の素材となるのかもしれない。