現代伝説考19 第四章.食の怪

肉たっぷりと言うが・・・

第4章.食の怪
 食事行為というものは生殖行為とともに、人間が自らの自然性・動物性と直面するひとつの場面である。日常の自然から切り離された生活のなかでふと生々しい自然と向き合う時間、それが食事行為のもう一方の側面でもあろう。それが逆に日常生活での自然との乖離を意識させ、無意識のうちに不安がよぎっていくとも考えられる。そして自分が目の前にしている食品の多くは、人手によって複雑に加工されたものばかりである。このような食事行為におけるなにげない不安が、「食の怪」のフォークロアをうみだす内的な源泉と見なしてもよいのではなかろうか。

1.不気味な食品
 集計してみて、やはり圧倒的に多かったのが「異常な原料の加工食品」というネタであった。それもほとんどが「変な肉」の入った食品のたぐいで、典型的なのがジャンクフードの代表ハンバーガー。ネズミ、ネコ、ミミズ、カンガルー肉といろいろでてくる。店に入って即座に差し出されるファーストフードだけあって話もお手軽そのもの、牛肉以外の変な肉が入っているというだけのものがほとんどであった。

『#16-1ネズミバーガー』
《都市伝説の話題ですね。わたしも、ハンバーガーの肉が、ネズミだ、という類のお話、関心があります。》
『#23-1ミミズバーガー
《ええーと、私の記憶では「養殖ミミズ」ということになってます。聞いてからしばらくは、M*C***の店の前を通るたびに、オガ屑かワラの中でギッシリ養殖されているミミズくんたちの姿がリアルにイメイジされたものでした(^^;。
 「話し」は、こうやって変化して伝わって行くんですね。》
『#30-2猫肉バーガー』
《あと、ハンバーガーの肉は私らの間では、ネズミではなく、猫の肉だというはなしで進められることが多かったように思います。》
『#53-1ネコドナルド?』
《ありゃ? ミミズでなかったか? それともミミズを使っているのはロッテリアでネコがマクドナルドだったっけ? (^^)》
『#196-3カンガルーバーガー』
マクドナルドのハンバーガー用の肉、最近オーストラリアから輸入してるでしょう、あれカンガルーの肉なんだって!(バブルの頃、女子大生)》
 かくしてバラエティーに富んだ変な肉のハンバーガーが出そろった。どこか知らない場所の大量生産工場で作られたハンバーグ。たぶん多量の化学調味料で一定に味付けされたであろう加工肉食品が、かならずしも牛肉でなくてもわからないという連想を呼び起こすのであろうか。

『#111-4バーガー・アラカルト』
《*千葉市在住、20代男性;肉は猫でしたよね。アレ?田ネズミだったかな?
p1 大阪在住、20代男性;ネコドナルドという話はけっこう有名だけど、最近はミミズらしいってのが定説となりつつあるんだって。古い伝説によると、ハメルンの笛吹きはピエロみたいな格好をしていたとかいう話だそうで、そのピエロというのが、彼だそうです。(彼=マック:ドナルド)
p2 江戸っ子、20〜30代?男性;猫だっていうお話は、昔っからありましたよね。
お店の裏に、猫の皮がいっぱい捨ててあるのを目撃して、口止め料をもらった人がいるとか……はたまた、そのウワサ自体がライバル会社が流したモノであるとか。
最初に聞いたのは、小学生の時に書道塾のお友達からでした。ちょっと本当かな?
と思ったりしたものでした。 ……今、考えてみれば、そんなわけないでしょうにね。》
 加工食品であるというのは、この種の「食品伝説」のひとつのポイントであるだろう。都市生活者は食料の生産現場に居合わせることはまずない。農業・牧畜などの一次的現場はもちろんのこと、その加工される工場にも一般の人が出くわす機会はすくない。ただただ、その「結果」だけを口にほうり込むという状況におかれているわけである。

 となると、いったい何を食べているのか自ら確認することは、ほとんど不可能に近いであろう。そのあたりから、さまざまな疑問や不安がやってくるのは想像に難くない。そして、そのような情報の欠落を埋めるのが「噂」のひとつの機能でもある。

 もちろんハンバーガーのほかにも、「あやしげな食べ物」の噂はいっぱいある。

『#21-2猫ダシラーメン』
《これも「ストーリー」なしです。近所のおばさんから30年ほど前に聞きました。
 おばさんのトシゴロになった一人息子さんは、若い女性と旨い物には目がない性分でした。友達の紹介とかで、食べ出したら止められないほど旨いラーメン屋を見つけました。ほとんど毎日のように通い付けて食べても、そこのしっとりとしたタレの味には、不思議に厭きが来ません(「若い女性」には、すぐ厭きるタチのようでした。------筆者註(^^))。ある日、店のトイレに入って用を足していました。ふと、トイレの窓から裏の狭い庭に目をやると、なんと...
 「猫のアタマ」がゴロゴロころがっていたとさ(^^;。もち、しっかりダシガラになっていたとさ。
 その若旦那は、トイレの中にあったコップかなにかを窓から投げつけて、店から飛んで逃げ帰ってきたそうです。もちろん、その後その店に行ったという話しは聞きません(^^)。
(おばさんが、特に「ブラック話し」が好きとも思えません。真顔で話していました。)
#そういえば、ウチの近くのラーメン屋、1ヶ月ブッ通しで喰っててもアキがこないなぁギクギクッ!!(^^;。》
 「手軽な軽食で安くてうまい」、こういった特長がこの手の噂の食べ物の共通項でもある。

『#54-1犬肉串カツ・猫肉餃子』
《「肉問題」ですが、大阪の新世界の通天閣(だったかな(^^;)、日立とか書いてあるやつ)の近くに安くておいしい串カツ屋がたくさんあったのですが、やはり、犬の肉というウワサが広がっていました(^^;)
 また、神戸に「アカマン(字を忘れた)」というおいしいギョウザの店ある(あった?)のですが、ここのおいしさの秘訣が少し入っている猫の肉というウワサも聞きました。こういうのは、商売敵が言いふらしているのかもしれませんね。友人は猫の肉が入っているからうまいとかいいながら、そこのギョウザを良く食べていましたが(^^;)
 これらは、10年以上前のウワサですが......データまで》
 さきのマクドナルドに代表されるように、有名チェーン店・系列店の具体的な名前と連動して語られることも多く見うけられる。統一化されシステム化された店舗の外装や看板、誰もがしょっちゅう目や耳にする名前、こういった一般性が噂の流通に寄与しているのであろう。

 同じ形・同じ味という規格化は現代の「複製時代」の特長であるが、一方で食事行為というのは人間の個別性をいやがうえでも指し示してくる。そのような標準化と個別性のギャップは、なにか不自然であり違和感をかもしだす。こういった違和も、噂の背景にあるかもしれない。

 以下のものも、いずれも有名食堂チェーンの噂である。

『#30-1病死肉牛ドン』
《私の仲間内では、某牛丼屋の牛の肉は、病死した牛の肉だ、ということになっていました。とはいえ、われわれは気にせずがつがつ食べておりましたが。》
『#106-4猫肉餃子』
《京都に本店のあるチェーン店『餃子の王将』の餃子の具は、ネコの肉だという話。これは、バイトをしていた学生の話として伝わっていました。マクドナルドやロッテリアのバリエーションのようです。もちろん、マックやロッテリアの話も聞きました。》