現代伝説考15

買い物籠から腕が・・・

3.人体の部分
 人体断裂という直接的な状況がなくても、人体の一部がそれだけで存在するというのはグロテスクで不気味なものである。この系列の話題には、部分として「手や腕」の多いのが特長的だった。人間の手というものは人体の中でももっとも活動的で機能的な箇所である。したがって普段は、肉体というよりも無機的な道具に近い存在として意識されている傾向がある。それが、いったん人体から切り離されて存在すると、とたんに不気味な様相を呈してくるのである。

 蜥蜴の尻尾が切り離されても蠢いている不気味さからも、それが類推されるであろう。『寄生獣』という評判になった漫画では、腕の部分に別の生き物が寄生して本人の意志とは別の意志をもつという主題が、その物語のエッセンスとなっていた。自在に動きまわる人間の手からは、本人とはもうひとつ別の人格が想像されるのであろうか。

『#82-1ライブハウス廊下の腕』
《今をさる4年ほど前、90年ごろ。私は名古屋の鶴舞公園のそばにある、バンドの練習用の貸しスタジオにあそびに行きました。夜も遅く、練習の終わったバンドの兄ちゃんたちと、店のオーナーのおばちゃんと、いっしょにだべっておりますと、あるバンドの兄ちゃんが、こんな話をしました。
大須にあるあのライブハウス、もとは防空壕だったそうだ(中古レコードショップのあるビルの地下一階にある、エレクトリックレディランドのこと)。それで、楽屋からステージに上がる廊下があるけど、そこの梁のかげから、ときどき手が突き出ている。梁は、廊下の壁にくっついているから、手どころか人の隠れる隙間もないはずなのに。
バンドの兄ちゃんが、オーナーを怖がらせるために作った話かどうか、さだかではありませんが、心霊写真のように、人の体のぶぶんだけが出現するというエピソード、ひじょうに怖い。》
 心霊写真のたぐいで、だれかわからない人の手が写っているという話も多い。つぎの噂は「タクシーから消える女性客」に分類すべきものだが、関連してここで紹介しよう。

『#116-1写真の手の数が多い?』
《熊本のTデパート火災の後、タクシーの運転手から聞いた話しですから、かれこれ20年前の話しですが・・
 自分の同僚が、夜、繁華街の下通りから若い女性の客を乗せて、江図湖までと指示され江図湖方面へ走り続けました。やがて、江図湖が近づいたので、どの辺でしょうか?と振り返ると、誰も乗っていなくて、シートがびっしょり濡れていた。下通りとはTデパートのあった所で、江図湖に女子寮があったそうです。運転手は、ショックで寝込んでしまい。半年たった今も入院中だよ、とそのタクシー運転手が言ってました。
 このパターンは良くある様に思います。ただ、この火災のデパートの経営者一族で経営関係していた人は、1年足らずでほとんど、病気で、亡くなってしましました。これは、噂ではなく事実ですし、再開され時、Tデパートは新聞広告を出しましたが、キャンペーンガールの人数と写っている、手の数が合わない、片手分、誰の手か分からない手が写っている全面広告が話題になった事があります。私もその広告は見ましたが、確かに手の数が合わなかったですね。》
 「人体の部分」は、いたずらにも活用される。

『#94-1買い物篭から腕が』
《あるスーパーで、毎日買い物に来る上品な奥さんがいました。さりげなく食品などを買い物篭に取り入れているのですが、その篭からは「白い腕」がニョキっと出ているそうな。マネキンさんの腕を篭に入れて、ショッピングを「楽しんでいる」らしいです(^^;。
 人に聞いたのか雑誌等で読んだのか、もう忘れました。》
 いたずらをしている当人が「上品な奥さん」というところが不気味である。単なるいたずら心だけではなく、なんらかの精神分析的な背景をうかがわせるような気味の悪さをも感じさせる。つぎのように、端的に「いたずら」と明示された話題もある。

『#94-2車の窓から脚が』
《そういえば、悪い知人がおりました。一人が車を運転して、もう一人は後部シートで片足のズボンを膝までめくり上げる。で、シートに寝ころびその足を車の窓から突き出して、「タスケテクレー」と大声を上げながら繁華街を走り回るのだそうです。ギョっとした他の車の人たちが、ワンサカと追跡してくるらしい。パトカーのサイレンも聞こえだしたところで、足を引っ込めてさりげなくドライブを続けるとかいう話し。悪いいたずらをする奴らです(^^;。》
 悲鳴だけではなく、人体の一部(足)が突き出されているほうが効果的であるという、人間の心理を読んだいたずらであろう。もちろん、人間の頭部というのも人をぎょっとさせる。

『#129-13シゴウ線には頭ゴロゴロ』
《話は変わりますが、アンダー・ヘアーの国、栃木県は南河内郡にある大学(南河内大学ではありません。クエッ、クエッ)の付属病院に勤務していた友人の話では、その近所の国道4号線では、よく死亡事故が発生するので、しごうせんと呼んでいたそうです。また、この道沿いにはかんぴょうの原料がゴロゴロ転がっており、顔の絵を書くという悪さをしたこともあるそうです。》