現代伝説考13 第三章.人体と人格のメタモルフォーシス

将門の首が・・・

第3章.人体と人格のメタモルフォーシス

 われわれは、自分の躯については「健常」であってほしいと願っているはずである。その躯が変形したり断裂したりする場合の恐怖と不安が、ここで取りあげる「人体変形怪談」の原点にあるとおもわれる。

 さらに、人間の躯というものはそれ自体で生々しさを感じさせるものである。それがさらに変形をこうむったり部分化されたりすることによって、不気味さや、あるいはグロテスクな滑稽さまでおびてくる。というよりむしろ、人体のもつ生々しさを昇華するために、人々は恐怖化と滑稽化の物語を作っていく傾向があるのではないかと考えられる。全体を眺めてみると、恐怖よりさらに滑稽化にまで進んだ話の多いのがこのジャンルの特長であろうか。

 このような肉体の変形は、単に物理的な身体だけの問題にはとどまらない。「精神」というものが「肉体」を超越して存在するのでないことは、近代の進展によって明白になりつつある。「肉体に問いたずねる」というニーチェの戦略をまつまでもなく、もはや精神と肉体は明瞭に分離不可能である。となれば、人体の変形は人格の変成であり多様化でもある。上記の人体の変形によるグロテスクなあらわれは、われわれ現代人の精神の不気味さをもものがたるといえよう。

1.人体断裂
『#132-3-1ネックレスひったくり』
《ある人が香港でひったくりにあった。ネックレスは切れずに首が切れた。
(去年か一昨年、香港旅行計画中のOLから、旅行代理店の人の話として聞いた)》
 人体の一部分がちょん切れたり切り取られたりするのは、物理的生理的な痛みと恐怖を感じさせられる。そのような直接的な「怖さ」がこの種の話の原点にあると考えらるだろう。それにさらに、さまざまな話が結びついて人体断裂系の物語のバリエーションなっていく。

 さきにあげた「首チョンパソアラ」のエッセンスも、そのような生理感覚にもとづいている。また「試着室ダルマ」系列の話では、若い女性が手足を切り取られたグロテスクな姿で発見される。躯をダルマにされてしまった女性は、肉体だけではなく人格の変成もよぎなくされるであろう。つぎの話では、もはやその人格そのものの存在さえゆるされていないかのようである。

『#331-1試着室ダルマと牛女』
《「東南アジアに行ったとき聞いた話なんだけどさあ、そのときのツアコンの人が昔添乗したパック旅行に一人で参加した女の人がいたんだって。
ところが自由行動の日に行方不明になっちゃって、家族の人が現地の警察に捜索依頼が出してさ。結局彼女は売春小屋で発見されたんだけど、両手両足を切取られたうえに、舌までぬかれちゃってモーモーとなくことしか出来なかったんだってさ」
(話者 30才女性)》
 「医学伝説」で紹介した「解剖室の壁に耳あり」の噂なども、その死体の身になってみれば無惨なことである。この種の人体解体の恐怖譚の究極には「バラバラ殺人事件」が思いおこされる。

『#116-3福岡のバラバラ事件 』
《福岡のバラバラ殺人事件の噂話です。もちろん、これは、まったく根拠のない話しです。ただ、かなり流布していて、ほとんどの奥さん連中や、OLは耳にしてると思います。新聞社にまで、この噂話を持ち込んで早く真相を発表しろという、電話や投書があったようです。地方版のコラムで噂話を否定するコメントが出てました。ある、外科の病院の息子が自殺しました。彼も外科医です。彼と、殺された被害者はお付き合いがありました。被害者は彼の子を身ごもっていたそうです。彼は、被害者の職場の上司である、この事件の容疑者とも不倫の関係にあった。そして、被害者から妊娠をネタに脅迫されていたと言う事です。
そこで、容疑者と共謀して被害者を殺害し、妊娠がばれないように、乳房を切りとり、また、胎児を摘出した為、下腹部が切開され内臓が発見されていないのだそうです。外科医ですから、死体の解剖が実に手際よく綺麗に処理されていたのはこの為だという事です。
そして、彼は、罪の重さに耐えきれず自殺した。親は病院を経営しているので、財力がありあますから、この事を隠すために、容疑者の家族を外国に住むよう援助し、マスコミや警察にも手を回して真相が世間に知れないようにしているとの事です。この噂は数多くのバリエーションがあるようで、他にも2、3の説があると会社のOLは言ってました。私は妻から聞きました。今年の7月か8月の事です。妻は近所の奥さんから聞いたそうです。》
 あまりにもリアルで悲惨な話であるが、現実にひそかに語られている噂であろう。もう少し滑稽味をおびたバラバラ事件ネタをあげる。

『#244-1人間ダシラーメン』
《もう15年位前だったでしょうか。大阪だったか、福岡だったかの、屋台のラーメン屋で、人の手首を煮てダシ(!)をとったという犯罪があったのですが、ご記憶の方いらっしゃいませんか。屋台のオヤジがヤクザだったと記憶しています。確か、異臭がして到底ダメだということになって、誰にも食べさせずに自白したのだったと思います。しかし、何で手首が入手できたのでしたっけ? 誰の手首だったのでしたっけ? 何で手首なんかを煮たのか、その動機が不思議なのですが。
 この事件の後、屋台ラーメンのダシについて、色々としょうもない噂ばなしが広まったりしました。当然、冗談話として語られていたのですけれども。噂は、こういう事件の後の与太話から発生するのかも知れませんね。》
 「人肉食の恐怖」については後述するが、解体されて食に饗されてしまっては人格もくそもない。多少なりとも生きた人間の人格にかかわってくる問題となれば、整形手術があげられる。

『#354-1整形手術のその後』
《人体加工、ということでいえば、数年前週間文○が反・整形手術キャンペーン(?)をやっていて、面白く読んでいました。シリコンを埋めた鼻がくずれてゆがむだの、二重瞼にしたあとがつれて変な形になるだの、恐いんだけど例によって妙に魅力的でした。
整形にたいへん興味を持っている女性が、「整形すると、死んだときの顔がぐずぐずになっちゃうんだって」と、なんだかわくわくしたように教えてくれたことがあります。
また、性転換した元男性の、ホルモン注射やシリコン豊胸によるトラブルもいろいろ聞きます。》
 整形手術の前後で人格が変わるという話は現実に聞かれる。それが性転換手術ともなれば、人格と肉体の位相のギャップを肉体の側から適合させるということになろうか。

 かつての武士社会では斬首刑が通常におこなわれた。そして、その首とは人間の魂の宿るところでもある。当然ながら、斬られた首が祟るという伝説はたくさんみられたであろう。なかでも「将門の首塚」は、東京都心のど真ん中でいまでも生きつづける「現代伝説」である。

『#12-1将門の首塚
《東京大手町の読売新聞社三和銀行の交差点をお濠ばたのほうにあるいてゆくと右手に「首塚」があるのをご存じでしょうか?あれは平将門が京都で首をはねられ、それが関東に飛んでかえってきた、という由来によるものといわれています。
 なにしろ立地条件は一等地ですから、いままで何回もここにオフィスビルが計画されましたが、そのたびに不吉なことがおきたので現状のままになっています。だから、あの丸の内のビル街に、ここだけ50坪ほど「首塚」としてのこっている、というわけ。
 みなさんもこのことはご存じとおもいますが、あの付近にご勤務のかた、また過去に、あの場所に建設計画をなさった関係者のかた、これについていまどんなふうにあつかわれているか、お教えください。
 また、京都の「将軍塚」もおなじく将門の首塚とされているようですが、あそこにはなにか因縁ばなしがあるのでしょうか。京都のかた、お教えください。いまでも怪異現象がある、とききましたが。
 ちなみに、明治の新聞をみますと、明治天皇が東京にこられて、三社祭を見物にゆかれたら、その日は一天にわかにかき曇り、それは将門の天皇家にたいする怨念だ、とされておりました。》
 「将門の首」が遠方より飛来するという広大な空間の話が、首塚の地縛霊となって祟るという怨念の物語となっている。関連してよせられた将門伝説の事例を羅列してみよう。ひとつの問いかけからいくつもの一次情報がよせられるという、ネットワーク・フィールドの好適な事例でもある。

『#13-1将門の首塚
《それと後ほどゆっくり書かせていただきますが 平将門伝説ならば足利にも幾つかあります。手が飛んできた話しと 将門の霊力を封じ込めるために祈祷をした寺に三本足の鶏の足跡が残されたという話です。
前者は大手さま 後者は鶏足寺として 確かもうひとつ大腹さまといって 胴体も飛んで来ていたような気がします。》
『#52-5将門の首塚
《実は私は新橋に5年ぐらい勤めていましてその時に聞いた噂で奇妙なのがあります、「首塚」の事なんですが、「首塚」の北東方向の延長線上のビルで対面になりますが南西の角に役員室を作っていた企業がありそこの住人(重役が)不思議と不慮の事故死で歴代亡くなることが多いのでその部屋は現在物置となっているというものです。勿論噂ですから企業を特定できませんが 、数百年たってもパワーのある「首塚」ですね。》
『#57-1将門の首塚
《友人が首塚の裏手のビルに勤務していましたが、彼女の会社のOLの間では、首塚に対してお尻を向けて座らない、というのが不文律になっていました。やはり昔いろいろと祟りめいたことがあったというのです。今から4〜5年前に聞きました。》
『#190-1将門の首塚
《1 ビルの首塚に面する側は窓がない造りになっている
2 首塚にお尻を向けて座っている人には、悪いことが起こる
3 正月に首塚への供え物を忘れたら、その部署の人に病気や事故などの異変が次々ふりかかったが、供え物をしたらぴたりと止んだ》
『#191-1将門の首塚
《どうやらあの辺のビルでは將門塚を窓から見おろすことがタブ−になっているらしい。》
『#200-1将門の首塚
《ご隠居さんは、首塚のところにオフィスビルを建てようとして色々厄災が起きたというお話を紹介されてましたが、実は私の居たビルは、首塚の上に建って居るんです。
 どういうことかって? 私が聞くところによれば、現在の首塚の位置は、もともとの場所ではないんです。将門の首がたどりついたのは、現在ランディック大手町ビル(元長銀本店)があるところ(読売新聞本社の向かい、三井物産の隣、三和銀行の道をはさんだ隣)で、そのもともとの首塚のわきに大蔵省の建物があったんだそうです。それが、大蔵省が引っ越しをし、現在の大蔵省が設立した長銀のビルを建てるときに、首塚を現在の位置にずらすことにしたそうなんです。そうしたら、なんだか相当にいろんな事件が起こったらしいのですが、残念ながら具体的な話はちょっと忘れてしまいました。》
 女性の人格というものをハナから無視したような笑話をあげて、つぎにうつる。

『#97-7電球バリンの女』
《女は電球の球を例の場所に入れたが圧力をかけた途端に割れ、出血多量で亡くなった。》