【長崎小6少女殺人事件】-1

【長崎小6少女殺人事件】-1

 加害者少女Aと被害者少女Bは仲良しで、数人のクラス仲間とともにインターネットHPで交流していた。その後、二人の間にHP上の書き込みでトラブルがあって、それが事件の一因であったとも言われている。

 被害者B少女は、快活で社交的で、包容力があり人望も高かったようで、仲間たちのリーダー的存在だったらしい。他方、加害者少女Aは、父親が病弱で経済的に恵まれず、学校の成績もそこそこ優れていたがB少女には及ばなかったという。HPの書き込みなどからうかがえる範囲では、二人とも多少早熟な面があり、小6の少女にしてはかなり文才・文学的感性があると見受けられる。

 加害A少女からすれば、B少女はある種のライバルであり、かつまた、自分の理想像を投影する存在でもあったようである。A少女の意識としては、B少女から好かれて庇護されなければならない、とともに、B少女は追い付き追い抜かなければならない存在でもあった。

 このようなアンビバレントな情況下で、B少女のさりげなく放った言葉が、A少女には想像以上に大きくのしかかって来る。早熟的に思春期にあるAには、「重たい」と言われたことが頭にこびり付く。「ぶりっ子してる」とHPに書かれた言葉は、それが当たっているが故に、B少女のHPをジャックしてでも抹消しなければならない。あげくの果てに、B少女から「(HP仲間であることからから)はずれて欲しい」と書かれたことは、Aにとって、B少女から「見捨てられる」ということを意味したであろう。

 その他にも、A少女の母親が私立中学を受験させる意向をもっていて、少女が楽しんでいた学校のミニバスケット部を無理やり辞めさせたことで、鬱屈して荒れ気味だったという指摘がある。また、「バトル・ロワイヤル」という小説がコミック化や映画化されていて、鬱屈した情況下のA少女が愛読していたという。

 この物語は、孤島に集められた子供たちが、プロレスのバトルロイヤルよろしく最後の一人になるまで殺し合いをさせられるという筋立てだという。当然ながら陰惨な殺戮シーンが頻出するであろうが、そのようなバーチャルのバイオレンスに耽溺していたのでB少女を殺害するに至ったとするのは、短絡であり本末転倒である。そのようなバイオレンスシーンの氾濫が現実の事件を引き起こすのではなく、むしろ、若者たちが置かれている現実の欺瞞的な社会状況や精神状況が、彼らをしてバイオレンスの物語を支持させているのである。

 このように見てくると、上記に挙げたようなことは事件の遠因であり状況証拠ではあるが、これらのものをいくつ集めたところでこの事件の本質部分は一向にクリアになってこない。そしてわれわれがこの出来事に驚き戸惑っているのは、まさにその本質部分が見えないからこそであろう。
(つづく)